さくらの木から
桜を墨の世界で...
開花をこんなにも待ち焦がれる花がほかにあるでしょうか。
今日か明日かと心待ちにされ、満開の時を迎え、一斉に絵巻物のような世界を作ります。そして瞬時に散って行きます。散り際も、潔さの中にも「桜吹雪」「花筏」と余韻を残し綺麗な姿で消えて行きます。
次には何事もなかったかのように緑の世界を作り出し、ほかの樹木の新緑と同化しています。秋には紅葉しますが、目立ちもせず、「いちょう」や「もみじ」「かえで」に舞台を譲り、冬は、凛とした枝だけになり静かに春のその時に備えています。
満開の桜の後、何事もなかったような顔をして新緑に同化している桜を見ていたら、桜と墨を通して話してみたくなりました。
2020.3.26-31「さくらの木から」書展
会場:アートスペースK (神楽坂)
「さくらの木から」に寄せて
「桜」という字は誰にでも書けます。 それでは一字一字、かたちを変えて書いてみましょう。 こっちを長く、あっちを大きく... 知恵をひねって、違う「桜」を絞り出す。 「桜」パズルの頭脳ゲーム。 あなたは何通りの「桜」が出来たでしょう? それは何かこころに響きましたか? 今度は頭をからっぽにしてみます。 我を捨てて筆の動きに身をまかせると、 頭ではなく身体が書いた「桜」が現れます。 未知の「桜」と、それをじっと眺めている自分。 もしそこに親密な対話がはじまると、そのとき偶然が必然に変わります。 そして「桜」はあなただけでなく、他者へも語りかけはじめます。 100回に一回の出来事かもしれない。 でも、作品というものはそんなふうにして生まれます。
「書に遊ぶ」講師 中嶋 宏行